17.長くやり続ける
「継続は力なり」と言います。
長くやり続けることが大事というトピックです。
そんなの誰でもわかってると言われそうですが、
知っているのとできているのは大違いですよね。
部活や課外活動など、学生時代に日々継続的な活動を、
2年以上続けたグループの方が、1年だけ続けたグループよりも、
追跡調査の結果、収入が高いという研究リポートがあるそうです。
仮説の時点で、多分そうなのだろうな、とは思うのですが、
ちゃんと検証した研究者がいるんですね。
コロンビア大学の心理学者マーゴ・ガードナーらの共同研究です。
建設業界では現場での手間を最小限にし、
工場での生産・製作したユニットを搬入し、
現場にて組み立て・接合する方法で、生産性を上げてきました。
そのため、各工種で熟練工は絶滅危惧種となっています。
日本の都市の景観がみな似ているのはそのせいでもあります。
余談になりますが、シンガポールを訪ねた際に、
日本では有り得ないような独創的な建築物が多く見られ、
とても驚きました。
台風や地震など自然災害リスクが世界一に低く、
政府方針により建築物への法規制が緩和され、
景観をとても重視しているせいでもあります。
話は戻りますが、ひとつのことを長く続け、
常に日進月歩で創意工夫を重ねて、
腕を磨いてきた熟練工の技は、時に機械の精度を超え、
まさに超人的なシゴトをやってのけます。
日本刀の研ぎ師は現代社会に多くはいませんが、
達人の研ぐ日本刀の切先の薄さを測定してみると、
機械で砥いだものを凌ぐと言われています。
また刀身に現れる波紋の美しさは、素人目にも明らかとも。
いまある職業の多くがAIに駆逐される、と言われる昨今。
長くやり続けたことが、機械に取って代わられて無駄になる。
そんなリスクは確かに存在します。
ハイテンションボルトが普及する以前は、
鋼材を接合するのに多く使われたのは、リベットでした。
釜で灼熱に焼いた真っ赤なリベットを、
鉄箸でつまんで数メートル頭上にいる仲間に正確に投げて、
上では鉄製のジョウゴでそのリベットを受け取り、
鋼材にうがたれた穴へ、これまた正確に送り込み、
焼けたリベットが冷めないうちに、
叩き役がガンガン叩いて、リベットを打っていく。
こんな曲芸師のような熟練工が確かにいたのです。
いまはそんなリベットが使われることはありません。
振動によって緩みやすかったボルトナットが改良され、
締め付け方法とその管理基準も確立されたからです。
リベット打ちの熟練工たちは需要がなくなり、
いったいどこへ消えたのでしょうか?
リベットからボルトナットに物が変わっても、
やはり鳶鍛治(とびかじ)として現場で活躍しました。
ふたつの鋼材にうがたれた穴をズレなく合わせ、
資材を準備して、適材適所に作業員を配置して、
チームワークで流れるように作業を進めていく。
そんな段取りや、作業の骨子には大きな差はありません。
建築土木の現場で長く培われた、TPOに即した所作や態度。
それらは技術革新が進んでも変わらないのです。
新しい技術に対応しながら、問題点を洗い出し、
日々工夫を重ねて、こうしたほうがいい、ああしてみようと、
熟練工はやはり新しい技術の習得にも意欲的で、研究熱心でした。
どんな分野でも熟練工を達人や一流の職人足らしめる理由があります。
ただ漫然と同じ事を長く続けるだけでなく、
飽くなき探究心と求道者のごとき向上心を持ち、
決して慢心せず、昨日より今日、今日より明日と、
小さな進歩を継続して成長し続けていく。
日々のそんな微差が長い年月を経て、大差となるのです。
マイスターやマスター、エキスパートという域に達するには、
どんな分野であれ、共通する姿勢というものがあるのです。