18.夢と踊る

夢を語る人が高度成長期にはたくさんいました。
経済が右肩上がりで、作れば作るほど物が売れたし、
マイカー、マイホームなんて言葉で広告が溢れ、
明るい将来設計を抱きやすい時代でした。

平成になりバブルが弾けてデフレが進み、
夢みたいな事ばかり語るロマンチストは、
なんとなくカッコ悪く感じるようになりました。

夢と踊るように生きよう!

大きな夢を叶えてもいない僕が、こう言うのは陳腐でしょうか?
夢を持ち、大志を抱き、目標を立て、意欲的に日々成長を目指す。
日々のノルマや義務に追われて、重い足を引きずり、歩く屍になる。

比べるまでもなく、どちらが楽しくて、
生きている実感を持てる在り方か、誰にでもわかりますよね。

多くの人はその両極端の中間に位置する在り方です。
辛く苦しい悪い日もあれば、いい日もたまにある。
真面目にがんばっていれば、世の中捨てたもんじゃないさ。
そんなふうに世界や人生を捉えて、無難に安全に安定した日々を送る。

コンフォートゾーン(快適領域)から出るのは誰でも怖いですよね。

冒険はゲームや漫画などの仮想現実で充分。
実生活は質素倹約で、身の程知らずの挑戦などするもんじゃない。
もっとラクしたいだけ。だいたい失敗したらカッコ悪いし。

僕もそんなふうに考えていたころがあります。
妄想癖はあるけど、ものぐさ太郎。
変な知識は豊富だけど、行動力に乏しい、引き篭もり予備軍。
そんな時期が確かにありました。

何をしても、すぐに退屈しました。
感情の起伏がなおさら希薄になりました。
誰かと過ごしていても、どんどんリアクションは薄くなる。

退屈ほど人間を残虐にします。
生活に死の臨在がないと、ホラーや悲劇を好みます。
人が死ぬ話を観たり、読んだりして、泣きます。

大人になっても従うばかり。
怠惰にルーティンをこなしながら、
たまにコンビニに敵を買いに行く。

そうやって歩く屍のようになっていったのです。

そのくせツタヤで映画を借りてきては、泣くのです。
「僕にも何か夢中になって打ち込めるものがあればなぁ」
安全な場所にいて、リスクを取る勇気もないくせに、
心震わせて熱く生きる登場人物たちに憧れちゃったりして。

そんな一般ピーポーの胸を熱くさせる「カリスマ」がときどき出現します。

僕にとって、それは「BABYMETAL」でした。

2014年8月に自宅のPCで暇潰しにネットサーフィンしていました。
そこでユーチューブのとある動画を踏んでしまったのです。

ハードロックの本場UKで毎年開催されるソニスフィア・フェス。
それは数あるロックフェスの中でも、ラウドで激しく、伝統と権威あるフェス。
そこに日本のバンドが日本語の歌で参加していました。
その出番の一部始終をファンカムで繋ぎ合せた30分足らずの動画でした。

衝撃を受けました。
日本のバンドがソニスのメインステージに立ち、
5万人を越えようかという耳の肥えた聴衆を圧倒し、沸かせている。

しかもゴスロリ衣装でステージを駆け回るフロントマンは、
年端もいかないティーンの女子中高生3人!さらに歌詞は日本語!

特に印象的だったのはボーカルの歌声でした。
爆音の生バンド演奏に掻き消されずに、ハート響き、遠くまで届く声。
ビブラートやファルセットもない、ストレートで伸びやかなハイトーンボイス。

動画を見終わるとまた繰り返し再生。
気づくと滂沱の涙が溢れて止まりませんでした。

日本のロックバンドが海外のフェスに呼ばれて出演し、
たくさんの聴衆の度肝を抜いて、熱く支持される。
いつかそんな日が来ればいいなぁ、と遠くを見詰める。
そんなロックファンは僕だけじゃなく、たくさんいたはずです。

でも、それはキャプテン翼がW杯で優勝するような、
漫画でしか起こりえない出来事と思っていました。
それを堂々と成し遂げちゃった女子中高生たちが現実にココにいる。

こ、こんな、いま世界中で一番楽しげなお祭りに、
参加しない理由などあろうか?
いやない!

すぐに関連動画を漁り尽くし、検索してあらゆる記事を読み、
公演情報を調べたら、9月13日、14日に、凱旋帰国ライブを、
幕張メッセで演るとのこと。チケットはとっくに売り切れです。

ヤフーオークションで転売されてるチケットを4万はたいて落札し、
十数年振りにライブに足を運びました。最高に楽しかった。

以来、もちろんファンクラブ的な「THE ONE」に登録し、
関東近県でのライブには必ず出掛けて行きました。

それがキッカケになり、BABYMETALに限らす、
気になるアーティストの公演には、
なるべく出掛けて行くようにもなりました。

2017年12月には、BABYMETALのボーカルであるSu-METALが、
二十歳になるその節目に出身地広島で初めての公演をしました。
これをキッカケに、地方遠征もするようになりました。

2018年2月、とある起業塾の説明会セミナーに出掛けました。
そこでワークをやらされました。

経済的自由、時間的自由、空間的自由、
人間関係のしがらみからも解き放たれて、
真の自由を手に入れたなら、あなたは何をしますか?
3分ほど時間を取るので、紙に書いてみましょう!
書けましたか?では何人かに発表してもらいましょう!

「好きなアーティストを追いかけて世界一周する!」
登壇してマイク持たされて、そう宣言しました。
もちろんBABYMETALのソニスフィアが脳裏に蘇っていました。

その数日後、BABYMETALのワールドツアー2018の予定が発表されました。
フェスを含むアメリカ8都市でのUSツアーと、5都市6公演の欧州ツアーです。

当時はまだ建設リニューアルの現場監督として会社員でした。
いまだに副業も禁じている、かなり拘束性の高い仕事です。
行ける確証なんて何もないのに、ネットでチケットを取り始めました。
公言したことで、言行一致するよう脳は整合性を保つのです。

グーグル翻訳を駆使して、英語サイトと格闘しながら、
あれよあれよという間に米国8都市のチケットが取れてしまいました。
そのあいだに、脳内ではすでに海外メイト(ベビメタファン)と共に、
拳を振り上げ、アンセムを合唱する自分がありありと思い描けていました。

さあ、次はまず、切れてるパスポートを取らなくちゃ。
別れたカミさんと行ったラスベガスの新婚旅行以来だから、
海外旅行自体が19年振りのことでした。

飛行機のチケット、宿泊するエアビーの予約(会場を調べてなるべく近くに)、
段取りしながら、もうすでに心は向こうに飛んでいます。

チケットの取り方、格安航空券の探し方、AirbnbやESTAの存在、
それ以前は知らないことばかりでも、
必要な知識とスキルは身に付けるしかありません。

空港から宿までの足はどうしたらいいんだ?
この街は路面電車が走ってるけど、こっちの街は公共交通網がないな、
ウーバー?何それ、美味しいの?なんて具合です。

そうやってお金も使って、いろんなことも学んで、
その日、その場所で、会いたい人に会うために、
そして未だ見知らぬ仲間と交流するために、
できる準備をし、段取りが全て終わった所で、

有給取らなきゃ。

搭乗は5月9日の夜だから、5月10日から15日間の有給申請を出しました。
もしダメだと言われたら、辞めてやるくらいの覚悟でした。
ここまで段取りしといて、やっぱり行けない、という選択肢はなかった。

「おー、たまにはいんじゃない!」

あっけなく有給申請は直属の上司に受理されました。
労働基準法に照らしても、当たり前のことなんですが、
反対されるんじゃないか?という思い込みがあったんですね。

「その代わり、いま担当してる現場はキッチリ納めてよ!」

言われるまでもなく、日曜休日もGWも返上で段取りをつけて、
後は任せて大丈夫と踏んで、引き継ぎを済ませて、飛びました。

19年ぶりの渡米、BABYMETALを追いかけての珍道中を詳しく語るのは、
また他の機会に譲りますが、苦労もしながら、とても幸せな日々を過ごしました。

このUSツアー8都市全通に味をしめてしまいました。
会いたい人に会いに行く!を我慢しない在り方に、
僕の生活が一気にシフトチェンジしました。

感動を情熱に変えて、小さな勇気で一歩を踏み出して、夢と踊るように生きよう!

まだ成長できるのか、自分にガッカリしないか、ちょっぴり不安でドキドキしながら、
きっと成長できると信じて、まだ見ぬ景色を夢見て、心弾ませてワクワクしながら、

その踏み出した一歩に喜びがあります。

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